ナショナル・トラストは、1894年に、イングランド・ウエールズ・北アイルランド(スコットランドは別組織)の歴史的に重要な土地や建物を永久に保存するために創られました。主な財源は会費と寄付です。所有資産総面積は2287平方キロメートルで東京都より広く、価値のある建物や庭園を300箇所所有し、一般には有料で公開しています。会員数は200万人(全人口の30分の1)で、会員になると入場料の免除、イベントへの招待、ガイドブックの送付などの特典が受けられます。
トラストの構想を思いついたのは、ロバート・ハンターという人で、公務員だった経験から国のやり方を知っており、議会に働きかける環境保存運動に限界を感じ、所有者優位の法のもとで土地を守るには、土地を獲得する力が必要だという結論を出しました。
オクタビア・ヒル女子は社会改良運動のパイオニアでした。「ナショナル・トラスト」の名付け親で、国民のための「ナショナル」、慈善性を強調するために「トラスト」という言葉を選びました。
キャノン・ローンズリーは牧師で説教や献金集めはお手の物でした。トラストのために、国中を飛び回って、PR活動をし、トラストの資金調達係として情熱的に働き続けました。ビアトリクス・ポターや、ワーズワースや、ラスキンも彼に影響されて、家や土地をトラストに寄付しています。
1930年代になると、相続税を払えないため地方の広大な敷地にある屋敷を手放す人が増えましたが、トラストは全部買う財力は無かったし、寄付されたところで維持できませんでした。そこでトラストは議会に働きかけ、維持費を生み出す農地も寄贈してもらうことができるようにしました。
海辺の土地はいつでも工場用敷地として狙われやすく、トラストは海岸線を永遠に自然のまま保存する必要を感じ、1965年から募金を始めました。目標はイギリスに残っている未開発の海岸線900マイルをトラストで獲得し、保存しようというもの。実現すれば、イギリスの全海岸線3000マイルの約3分の1を所有することになります。現在506マイル(全海岸線の6分の1)は獲得に成功しています。
日本にもナショナル・トラストがあります。1964年、鎌倉八幡宮の裏山の宅地造成計画に反対した市民が募金により1.5ヘクタールを買い取ったのが始まりで、知床や沖縄のヤンバル森林保護運動など、数十例があります。しかし日本はあまりにも開発のスピードが速すぎること、地価が高くて買取不可能であることなどで、かなり苦戦しているようです。
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